そして専務室に戻った俺は
椅子にドサッと腰を下ろすと
背もたれに体を預けて天を仰いだ。


今更、どの面下げて
寄りを戻してくれと言えるのか。


あんなに酷いことを言って
きっと桜良は俺のことを
好きどころか
もしかしたらすでに
嫌われているかもしれない

そう考えると
ズキンと心臓に鋭い
痛みが走り唇を噛んだ。


苦しさに目を閉じると
初めて出会った時の桜良を
思い出す。

出会った時の桜良は
とても苦しそうにしてた。

喘息で咳が止まらなくなって
うずくまっていたところに
俺はちょうど通りかかったんだ。

あまりにも苦しそうな桜良に
俺は少しでも楽になってほしくて
ずっと背中をさすっていた。

そして少し咳が落ち着いてくると
「ありがとうございます」
と柔らかな笑顔を向けて
お礼を言う桜良に俺はドキッと胸が高鳴った。

それから会社で廊下を歩くたびに
桜良の姿を無意識に探していた。

決してずば抜けて綺麗な訳でもなく
どちらかと言えば
地味で大人しい子だ。

だけど、あの柔らかな笑顔を見たくて
桜良がエレベーターに乗り込むところを
見て急いで一緒に駆け込んだのだ。

しかし、今度はお化けでも見たかのように
驚きの表情浮べてこちらを見上げる桜良。

俺が話し掛けると動揺して声が裏返ったり、
明らかに緊張しているなと伝わってくる。

おまけに焦って俺の 
目の前で蹴躓いた挙げ句、
スカートのチャックからパンツが丸見えになってるし。

それがあまりにも可笑しくて
そしてとても可愛いと思った。

自分からこんなにも女性に
興味を持ったのは
桜良が初めてだったと思う。