松谷が部屋から出ると
俺は解放されたようにホッと息をついた。

松谷には仕事と言ったが
見え透いた嘘はバレていただろう。

やはり、桜良が新しい職場でちゃんとやっているか心配なのだ。

あまり公私混同はしたくないが
紹介した立場上、少し覗くくらいなら
問題ないだろう。

すると、そんな俺の姑息な手段で桜良に会おうとしていることを咎めるかのように内線電話がけたたましく鳴り響いた。

ディスプレイに映し出された番号は
社長室からだった。

社長は俺の親父だ。

朝っぱらからなんなんだ...

俺は渋々、電話をとる。

「はい」

「竜海。すぐに社長室まで来い。」

親父はそれだけ言うとガチャリと
すぐさま電話を切った。

親父から要件を言わずに来いとだけ言うときは大抵、面倒事だ。

しかしすぐに行かないと
来るまでしつこく電話を鳴らすだろう。

俺はパソコンを閉じると
社長室まで向かった。

一応ノックをして社長室に入る。

入るやいなや「遅い」と一喝する親父は
椅子に座って踏ん反り返っている。