連中を呼ぶ(、、)方法は分かっている。あえてルールを犯すことだ。

 彼らが状況のすべてを見ているなら、こちらの狙いも筒抜けのはずだ。

 それでも倒すことを画策するだけではルール違反にならないためか、制裁には来なかった。

 それとも、余裕の現れだろうか。

 ともかく今は、呼んだ後のことを考えるしかない。
 
「一対一じゃ敵わねぇよな」

 向こうが何人で来るか分からないが、万全の対策はしておかなければならない。

 こちらの戦力は実質六人である。日菜はあくまでヒーラー役であり戦えはしない。

「基本的に私たちはバラバラにならないようにしよう……。人数が減るほど隙が生まれる」

「そうだね。でも、誰を相手取るかは決めておこう」

 ────かくして、呪術師は紗夜と瑠奈、霊媒師は奏汰、祈祷師は冬真、リーダーの陰陽師は小春と蓮が請け負うこととなった。

 日菜は随時負傷者の治癒を担当する。

 過去、祈祷師と冬真には関わりがあったが、記憶を失っているため問題ないだろう。

 祈祷師がアリスのような行動に出るとも考えにくい。

 蓮は本当のところ、恨みのある祈祷師に一矢報いてやりたかったが、恐らくそんな余裕はない。

(……一発くらい殴ってやる)

 密かにそう息巻いた。

 また、これは連中が四人で来たパターンの想定だった。

 これまで陰陽師は一度も姿を見せていないことから、今回もそうである可能性が高いかもしれない。

 そこで、陰陽師を除いたパターンも決めておく。

 そのときは陰陽師に割いていた戦力を分散させるわけだ。

 呪術師は変わらず紗夜と瑠奈、霊媒師は奏汰と小春、祈祷師は冬真と蓮、日菜はヒーラーという構成である。

 最初のうちに陰陽師が現れなくても、他の面子を倒せば出てこざるを得ないだろう。

 いずれの場合も、最終的には、陰陽師にゲームの中止を確約させる。

 失った人たちは戻らないが、可能な限り元に戻して貰う。世の人々の洗脳も解いて貰う。

 魔法を返還し、魔術師となった自分たちを解放してもらう。

 日常を取り戻す────それが最たる目標である。

「……それで、どうかな」

 小春が確かめるように言う。異論や反論は出なかった。

 それが最善だろう。

 自分たちを信じて逝った仲間たち、そしてこんな狂ったゲームなんかの犠牲となった他の魔術師たち、皆のためにも。

 何より自分たちのためにも。

「決行はなるべく急いだ方がいい……」

 紗夜が念を押すように言った。

 含まれている意味は推察に易い。小春は頷く。

「明日にしよう」

 唐突なようにも聞こえたが、諸々の事情を考えれば妥当だった。

「皆、今日はゆっくり休んで」

 平穏は終わる。

 所詮、鳥かごの中の平穏だが。

(私たちは抗う────)

 もう命も安全も担保されない。

 それぞれ、決然とした表情で頷き合った。既に覚悟の上だ。

 一同は解散の流れとなる。もう他の魔術師に襲われる心配もない。

 小春と蓮を残し、彼らはそれぞれ帰路についた。

 ガチャ、と玄関のドアを押し開ける。

 外廊下を歩いていくその背中を、蓮は引き止めた。

「奏汰」



*



 家の中に戻ると、小春の姿を捜した。

 彼女は紅に借りた部屋で何やら屈み込んでいた。蓮はそちらへ歩み寄る。

「?」

 何か紙を持っているようだ。
 覗いてみると、紅からの置き手紙だった。