小春は肩を震わせた。

 恐ろしいのか、怒っているのか、自分でも感情の整理がつかない。

  ただ文面で見るのとは違う。面と向かって身勝手な理屈を並べ立てられ、直接悪意に触れた今、明確に思う。

 そんなことがまかり通るなんておかしい。自分たちが巻き込まれる筋合いなんてない。

 ぎゅ、と握り締めた両の拳に力が込もる。

「そんなの、滅茶苦茶過ぎる……!」

「ははは。まー、言ってなよ。嘆いたって状況は変わんない。さー、どっちが早いかな? コウコウセイを皆殺しにするのは────キミたちか、ボクたちか」

 何を言おうと、彼らはゲームを止める気などない。それを思い知らされた。

 やはり、倒すしかない。彼の言うような結末が嫌なら、何がなんでも、どんな手を使っても、倒すしかないのだ。

「じゃ、そろそろ殺っていい? ちっと喋り過ぎた。ま、どのみち殺すからいいんだけどねー」

 冷ややかな声色から一転、興がるように祈祷師は首を傾げる。

 小春は彼の多彩な魔法を思い出した。まともに戦ったとして、絶対に敵わないだろう。少なくとも、自分一人では。

 いずれ倒すとしても、今は逃げなければならない。

「そーれ」

 祈祷師が両手を翳すと、小春を取り囲むように円形の炎が地面から燃え上がった。

 その熱気に怯みながらも、何とか空中へ逃れる。

 飛行魔法を持っていて助かった。そうでなければ、このまま焼かれて死んでいた。

 ぺろりと舌なめずりをした祈祷師は、空中の小春を見定めると再び手を翳す。

 ヒュッ、と何かが素早く飛んできたのが分かったが、突然のことで避けきれなかった。

「い……っ、ぁ」

 何が起こったのか、小春自身にも分からなかった。

 突如として痛みが走ったかと思えば、地面へ向かって急速に落下していく。

 どさ、と叩き付けられるように倒れ込むと、次いで何かが降ってきた。……脚が見える。

 痛い。熱い。苦しい。それだけが頭の中を駆け巡る。

(何が……起きたの?)

 どくどくと血があふれていくのが分かった。あまりの激痛に、何処が痛いのかすら最早判然としない。

 せり上がってきた血が口からあふれた。

 キィン、と耳鳴りのような感覚がする。意識が遠のきそうになる。

 力が入らない中、小春は必死で顔を動かした。

(え……?)

 腰から下がなくなっていた。

 身体が、二つに分断されている。

 意味が分からなかった。どうなっているのだろう。

 ただ、止まらない鮮血と激痛が、夢ではないことを強く訴えていた。

「焚き付けた主犯のキミには楽な死に方させないよー。ボクたち運営側は、ルール違反者(、、、、、、)に制裁を加えなきゃね」

 祈祷師の声がぼんやりと聞こえる。だが、その内容を正確に理解出来るほど頭が働かない。

 こんなところで死ぬわけにはいかないのに────。