「お前、祈祷師だな? 小春を返せよ。何処にやったんだよ!」

「はいはい、うるさい。キミは後でボクが……、いや────」

 一時的に小春を解放した祈祷師は自身の姿を現した。

 白髪に和装、半狐面の男。それを認めた蓮は睨むように見据える。

 祈祷師は口元に笑みを湛えた。

呪術師(じゅじゅつし)にでも相手して貰って来なさいな」

「な……」

 瞬間的に蓮と距離を詰めた祈祷師は、そのまま彼に触れた。

 蓮が何か言ったり抵抗したりする隙もなく、その姿が消える。

「蓮!!」

 突然、目の前から消えた。触れられて消えた────瞬間移動だろうか?

 何処へ行ってしまったのだろう。どうすればいいのだろう。

 身に迫る危険と孤独感が冷静さを奪っていく。

 祈祷師はくるりと振り返ると、わざとらしく両手を広げた。

「さぁ、ミナセコハル。邪魔者は消えた。遠慮なくぶっ殺させて貰うよー」

 足が竦んだ。背筋が冷えた。

 自分一人でどうにか出来るとは思えない。倒すなんてことは絶対に無理だ。隙を見て逃げるしかない。

 小春は深く息を吸い、必死で心を落ち着けた。

「ま、待って……。どうせ殺すなら、聞きたいこと聞かせて」

「えぇ? んー、まぁいいけど」

 祈祷師は答えるなり、小春の前に瞬間移動した。

「あなたは……何者なの?」

「だからボクは祈祷師だってば。運営側ね」

 さらりと言われたその言葉に息をのんだ。“運営側”────まさに自分たちが倒さんとする連中だ。

 何故、狙われるのか。その答えにも見当がついたような気がする。

 ……ならば、少しでも情報が欲しい。

「あのメッセージは何なの? 私たちのクラスや学校以外にも魔術師はいる。嘘なんだよね?」

「ありゃりゃ、バレちったか。ま、そうだねー。特定のクラスだけを殲滅するってのは確かに嘘」

 祈祷師は口を曲げた。

「だって、コウコウセイってクソガキじゃん? マジっぽいこと書かないと信用してくんないデショ?」

「…………」

「そんでスルーされて殺し合ってくれなかったら、こっちが困るかんね。ま、要するに“釣り”みたいなもんさな」

 その点は小春たちの推測通りだった。単なる扇動に過ぎなかったのだ。

 だが、何から何まではったりというわけでもないのだろう。

 彼らであれば、クラスの一つや二つ、学校の一つや二つ、下手したらそれ以上の規模で殺戮を行うことも容易いはずだ。

 実際、彼は“特定のクラスだけを殲滅する”ことが嘘であるとしか認めていない。

 バトルロワイヤルの根底は揺らがないのだ。

「十二月四日っていうのは────」

「それはホント。戦おうが戦わまいが、その日にはすべてが終わる。みーんな死ぬ」

「……っ」

 小春の蒼白な顔を見た祈祷師は、へらへらと笑った。

「なになに、今さら絶望? キミ、おバカさんだねぇ。別に何も変わんないじゃん? もともとそういう予定だったんだからさ」

 彼の口元から笑みが消える。

「ボクたち、最初から言ってるよね? 嫌なら殺し合え、って。そんで一人生き残ったヤツだけが助かる。単純めーかいデショ?」