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 カンカンカン……と、けたたましい音を立てながら踏切のランプが点滅する。

 小春を急かしつつ、蓮は歩調を速めた。

 そんな蓮に追従しようとした小春だったが、不意に目の前から小銭の散る音がした。

 高齢女性がまごついているのが目に入り、咄嗟に駆け寄って屈む。

「大丈夫ですか?」

 ぶちまけられた小銭を拾い集めていると、踏切の向こう側で蓮が振り返った。

「小春?」

「ちょっと待ってて!」

 そう返したとき、遮断(かん)が下りてきた。

 二人は分断された形となり、電車の走行音が聞こえ始める。

「まぁ、ごめんなさいねぇ……。ありがとう」

「いえ、気にしないでください」

 集めた小銭を渡すと、高齢女性は笑顔で礼を言いつつ立ち去って行った。

 ふわ、と風が吹き上がり、電車が通過していく。

 それを待っていると、頭の中で余裕のない大雅の声がした。

『陽斗と繋いでたテレパシーが切断された。この感じ、琴音のときと一緒だ……。たぶん、陽斗も────』

 その言葉に衝撃を受ける前に、ぱん、と何処からか手を打ち鳴らすような音が聞こえた。

 振り向こうとした小春だったが、突如として何かに捕まった。がっしりと首に右腕を回され、身動きが取れなくなる。

「誰……!? 離して!」

 もがいても力では一切敵わない。

 そのとき、目の前を走っていた電車が完全に通過し、向こう側に蓮の姿が見える。バーが上がっていく。

 小春は縋るように彼を呼んだ。

「蓮……!!」



 蓮は大雅からのテレパシーを受け、驚きを顕に眉を寄せた。

「また祈祷師の仕業なのか?」

『分かんねぇけど、あいつが他の魔術師に容易く殺られるとは考えにくいよな。まだ日も出てたから、ヨルでもねぇだろうし……』

 大雅と話している蓮は、小春の異変に気付いていないようだった。

「蓮! 助けて!」

 小春は精一杯叫ぶが、どういうわけか、蓮には届かない。

 うららと同じ消音魔法だろうか。小春から発せられる一切の音が消されている。

 心臓が嫌な音を立て始める。指先が冷えていく。

 背後にいるこの男は、いったい……?

「ボクじゃないよ? カイハルトを殺したの」

 小春の耳元から声がした。

 はっとした蓮は声の出処を見たが、誰もいなかった。

 得体の知れない気配を感じ、咄嗟に手に炎を宿す。小春を庇おうとしたが、周囲に小春の姿がないことに気が付いた。

「小春!?」

 そんな蓮の様子に小春は戸惑った。

 音や声が聞こえないだけでなく、見えてすらいないようだ。何の魔法なのだろう……?

「ここ……、ここだよ。蓮!」

 急速に不安になった。

 このまま存在まで消されてしまうのではないだろうか。

 蓮にも気付かれないまま、殺される?