蝶のようにひらひらと躱され、なかなか当てられない。

 そのうち、次第に周囲に霧が立ち込めてきた。それも霊媒師の使う魔法の一つなのだろう。

 視界が霞み、彼女の姿を捉えられなくなる。

「何処行ったんだよ!? 逃げんのか!」

「ばーか、そんなわけないじゃん」

 不意に真後ろから声がした。

 陽斗は慌てて距離を取り、再び指を構える。

「……っ」

 目眩がした。というより、脚に力が入らない。

 何だろう────確かに疲弊はしているが、倒れるほど魔法は使っていないはずなのに。

「あははっ! さっきまでの威勢はどうしたの? もう反動が出ちゃった?」

 霊媒師は高笑いすると、得意気に歩み寄ってくる。

「ま、今回は反動より……それ(、、)が原因かな?」

 彼女の指した先を見た。すなわち、陽斗自身の脚を。

 風穴がいくつも空き、血が滴っていた。地面が赤く染まっていく。

「何だこれ……っ」

 まったく気が付かなかった。彼女の攻撃を避けきれていなかったということだろうか。

 いや、厳密には違うだろう。撃ち込まれた衝撃すらなかった。

 霊媒師は水弾の威力を調整し、陽斗に痛覚がないことを利用したのだ。知らぬ間に蝕まれていた。

 がく、と崩れ落ちる陽斗を彼女は見下ろした。

「あぁ、可哀想に……。もう逃げることも戦うことも出来ないね!」

 その挑発は紛うことなき真実だった。

 立ち上がることすら出来ない陽斗には、逃げることも出来ない。

 荒い呼吸の中、不意に咳き込むと血があふれた。反動だ。

 もうこれ以上能力を使うな、という身体からの危険信号。

(く、そ……!)

 ひたすらに苦しかった。血の絡んだ浅い呼吸を繰り返す。

 誰か助けてくれ、などという儚い願いは、しかし誰にも届かない。

 悔しいが、自分の負けだと認めざるを得なかった。

 ────ここまでのようだ。

 大雅に冬真と手を組んだ経緯(いきさつ)を尋ねることも、シューティングゲームをすることも、もう叶わない。

 “運営側を倒す”という、目的を果たすことも。

「今楽にしてあげるから。さっさと死ね」

 霊媒師は手の内に雷を蓄えると、陽斗に落とした。

「……っ!!」

 当然避けられない陽斗は、威力増大の上まともに食らった。
 閃光が走る。

 どさ、とその場に倒れ────絶命する。

「……ん? 何かデジャヴ? ま、今回は死んでますけどねー。よし、消えちゃえ」

 霊媒師は独り言を唱えながら、陽斗の遺体に触れた。眩い光が閃くと、転がっていた陽斗が消える。

 彼女は肩口を押さえ、顔を歪めた。

「弱いくせにいきがっちゃって……ほんと癪。はー、早く帰んなきゃ。いててて……火傷も治さなきゃな」

 そう呟くと、霊媒師は姿を消した。

 ザァ、と吹いた風が草を揺らし、川の水面をわずかにさざめかせる。

 河川敷には静寂が戻った。