「え……?」


 ブラントは立ち上がり、ラルカの手をギュッと握る。その表情は、あまりにも温かく優しい。ラルカは大きく目を瞠った。


「僕は貴女を、あの家に帰しはしません」

「ブラントさま。そ、れは……」


 ドキドキと、心臓が鳴り響く。期待と不安が入り乱れ、ラルカはブラントを真っ直ぐに見つめる。


「この家で――――僕と一緒に暮らしましょう」


 ブラントが微笑む。ラルカは瞳を震わせた。
 

「ここには、貴女を人形のように扱う人は誰も居ません。貴女のお姉さまから指図を受ける人間だって、一人も居ません。
貴女は貴女らしく、この家で自由に生きたら良い」

「だけど、ブラントさま……! そこまでしていただくわけには参りません。あまりにも申し訳なくて――――」


 本当は、このままブラントに甘えてしまいたい。嬉しくて幸せで、堪らない。

 けれど、たまたま利害が一致して、婚約を結んだ相手に、ここまでの負担をかけるわけにはいかないだろう。
 ラルカは内心葛藤しつつ、そっと俯く。