ラルカがたっぷりと泣き叫び、ようやく落ち着きを取り戻した頃には、空はすっかり暗くなっていた。

 ブラントは未だ、ラルカのことを抱きしめながら、ポンポンと背中を撫でてくれている。


(どうしましょう……)


 我に返ってみれば、とても恥ずかしい状況だ。

 ブラントは表面上はラルカの婚約者ではあるが、実際に結婚をするつもりはない。男性に抱きしめられるのだって、当然初めての経験だ。

 ラルカを支える逞しい腕に、大きな手のひら。彼女を抱き留める広い胸は、ちょっとのことではビクともしないだろう。
 女性ものの甘いコロンとは異なる、どこかスパイシーな香り。

 胸が高鳴る。頬が紅く染まっていく。

 一体、どうやってこの状況に区切りをつければ良いのだろう?
 どんな顔をしてブラントと話をすれば良いのだろう?

 もんもんとそんなことを考えていたら、頭上から優しい声音が降り注いだ。


「少し、落ち着かれましたか?」

「……ええ」


 恐る恐る顔をあげると、ブラントは穏やかに瞳を細めて笑っていた。
 ラルカの心臓が、一際早く鼓動を刻む。

 恥ずかしくて、居たたまれなくて、
 ――――けれど、このまま彼に抱き締められていたい――――
 そんなことを考えている自分に気づき、ラルカは大きく首を横に振る。