「……だから雷光さんは好きなのに、好き
って言えないんですね。かほるさんとは生き
る長さが違うから。一緒にいられる時間が、
あまりに短過ぎるから」

 最後の方は声が震えてしまいそうになって、
古都里は言葉を途ぎる。きりきりと胸が痛ん
で仕方ないのは、こんな時に右京の顔が浮か
んで消えてくれないからだ。

 なぜ彼が妖であることを、こんなにも悲し
く思うのだろう?

 その答えを見つけられないまま、古都里は
飛炎の穏やかな声に耳を傾けた。

 「少ししか共に過ごせないことを悲しいと
思うか、少しでも共に過ごせることを幸せと
思うか。その人の考え方ひとつで辿り着く答
えはまったく違うのですけどね。雷光はきっ
と、人は人と結ばれた方が幸せになれると思
えばこそ、身を引くつもりなのだと思います。
ですがもし、古都里さんがかほるさんの立場
なら、雷光にどうして欲しいと思いますか?」

 「えっ?」

 唐突に水を向けられ、古都里は答えに窮し
てしまう。

 もしも自分がかほるなら、どうして欲しい
と思うだろうか?何も真実を告げずに、二人
の想いを断ち切ろうとする雷光に、自分は何
を望むだろうか? 


――束の間、目を伏せて考える。


 自分はまだ恋を知らない。知らないけれど。
 胸が焦げるような想いを抱えたまま彼の元
を去ることが、辛くない、わけがない。

 たとえ同じ時を生きることが叶わなくとも、
いつか必ず、彼を遺して死ぬ日が来るとわか
っていても。それでも、二人で過ごした時間
は永遠に消えないと思うのではないだろうか。

 この世にひとり遺される雷光のことを思え
ば、その想いはただのエゴイズムになってし
まうかも知れないけれど。

 古都里は先生に回答を述べる生徒のように
背筋を伸ばすと、答えを口にした。

 「わたしがかほるさんだったら、雷光さん
の口から本当のことを聞きたいと思います。
本当のことを知っても揺らがないくらいには、
きっと彼のことが好きだと思うから。全部受
け止めた上で、二人の時間を大切に、生きて
いきたいと思うんじゃないでしょうか?」

 言い終えた瞬間、何だか恥ずかしくなって
しまって古都里は盆を手に俯いてしまう。

 あくまで『例えば』の話なのに、古都里の
言葉に真剣に耳を傾ける飛炎の眼差しが、何
だか照れ臭い。

 すると飛炎は、我が意を得たりといった顔
で二度頷いた。

 「その言葉を聞いて安心しました」

 「へっ?」

 にっこりと深い笑みを向ける飛炎に、古都
里は素っ頓狂な声を漏らす。安心した、とい
うのはいったいどういう意味だろうか。疑問
のままに眉を寄せると、飛炎は小首を傾げて
見せた。