「どうして二人の恋が実を結ばないのかと
いうことですが……その理由は一つしかあり
ません。雷光が妖であり、彼女が人間だから
です」

 その答えは、言われてみれば至極当然のこ
とのように思えて古都里は口を噤んでしまう。

 人と妖が共存することを望みながらも容易
に自分たちの正体を明かすことは出来ないと
言っていた、右京。けれど正体を知らされた
自分はその記憶を葬られることなく、いまも
彼らと共に過ごしている。そのことを思えば、
異類という壁はそれほど高くはないように思
えるけれど。

 「かほるさんは、雷光さんの正体を知って
も受け入れてくれると思いますけど。それで
もダメなんでしょうか?」


――二人には幸せになって欲しい。


 その想いと共に浮かんでくるのは、なぜか
右京の顔で。古都里は脳裏に浮かんだ右京の
顔から、慌てて目を逸らしてしまう。

 飛炎は腕を組むと、静かに首を横に振った。
 その仕草に言いようのない不安を感じて、
古都里は唾を呑んだ。

 「彼女に正体を明かすことは、実はそれほ
ど大きな問題ではありません。おそらく雷光
が温羅であることを知っても彼女は他言する
ことなく、彼との恋を貫くでしょうから」

 「じゃあどうして?」

 「問題は我々の正体ではなく、人と妖が
同じ時を生きられないということにあります」

 「……それって、どういう意味ですか?」

 同じ『時』を生きられないというその言葉
の意味がわからず、古都里はきょとんとする。

 飛炎はその古都里に目を伏せると、細く息
を吐き出した。

 「我々にとって、人の命はあまりにも短過
ぎるのですよ。人にとって一日という時間が、
妖であるわたしたちにとっては一年以上もの
長い時となる。だから、たかだか八十年しか
この世に在れない人の命など、妖にとっては
一瞬の瞬きに過ぎない。人の世が血に染まり、
涙に濡れても、わたしたちの命は潰えること
なく、延々と続いてゆくんです」


――ガン、と頭を殴られたような気がした。


 人と妖が同じ時を生きられないという事実
を理解した胸が、きりりと痛みを訴える。

 どうして雷光が『温羅』だと聞かされた時
に、気付かなかったのだろうか?語り継がれ
る温羅伝説は、千三百年以上も前の出来事だ。

 しかも、伝承の通りなら雷光は温羅討伐の
際に、左目を矢で射抜かれ、首を刎ねられて
いる。もしかしたら人にとって致命傷となる
傷でさえ、妖にとっては大疵(おおきず)程度のことなの
かも知れない。

 二階から聴こえてくる優美な箏の音を遠く
に感じながら、古都里は一点に目を据えた。