右京を先頭に十三絃が三面、雷光の十七絃
が一面、そこに飛炎の尺八と延珠の三味線が
入る。元々は尺八曲だったものを政島検校政島検校(まさじまけんぎょう)
胡弓曲に移し、さらに藤永検校(ふじながけんぎょう)が三味線曲に
編曲した『八千代獅子』は、地歌の祝い曲と
して長く親しまれている。

 本番さながらに右京が、シャン、とお辞儀
の合図を小さく鳴らすと皆が揃えて頭を下げ、
演奏が始まった。


 いつまでも、かはらぬ御代にあひたけの♪


――箏、尺八、三味線。


 それぞれに呼吸を合わせながら、歌を歌い
ながら、厳かに音色を奏でる。右京と二人で
練習をしているいつもと違い、大勢の視線の
中で箏を弾くのはとても緊張した。

 雷光の弾く十七絃は絃が太い低音楽器で、
その重厚で迫力のある音色が部屋に響き渡る。
 そして尺八の風を擦るような、柔らかな音。
 三味線のキレのある、小気味よい音。

 それらを調和するように十三絃の箏が伸び
やかな音色を奏でた。

 約七分の演奏を終え、右京の合図と共に頭
を下げると細やかな拍手が打ち鳴らされる。

 ふっ、と緊張が解け、胸に手をあてている
と先頭で弾いていた右京が振り返り、やんわ
りと笑みを向けた。

 「音が走ることなく、ゆったり弾けていま
したね。声もよく出ていたし、皆の気持ちも
ひとつになっていたかな」

 その言葉に一同がほっとした表情を見せる。

 今日は一日のうちに全曲の手合わせをしな
ければならないから、右京から及第点が貰え
たなら、この曲の手合わせはこれでお終いだ。

 「ありがとうございました」

 古都里は他のお弟子さんと共に頭を下げる
と、外した箏爪をケースに戻し、それをオー
バーオールの尻のポケットに仕舞った。

 そして慌ただしい空気に押し流されるよう
に、次の曲の準備を始めたのだった。







――滞りなく練習が進んでいた、夕刻。

 玄関に膝間づき、上がり(かまち)に手を掛けて靴
を揃えていると、カラカラと格子戸が開いた。

 「こんにちは、古都里ちゃん」 

 その声に顔を上げれば、紙袋を手にかほる
が立っている。ぎゅうぎゅうに敷き詰められ
た靴たちの向こうで含羞んでいるかほるに目
を輝かせると、古都里は声を弾ませた。

 「お久しぶりです、清水さん!お元気でし
たか?あっ、ちょっと待ってくださいね。
いま、靴を脱ぐスペース作りますから」

 言って、玄関に敷き詰められた靴を寄せて
ゆく。三十人以上ものお弟子さんたちが集ま
れば、いくら玄関が広くとも靴は溢れ返り、
文字通り足の踏み場もない。

 その様子を見て、ふふ、と笑みを零すと、
かほるは寂しげに言った。