「俺がいつ櫻子を好きだって言ったんだよ」

……そういえば、そんな話は聞いたことがない。

私が勝手に感じていただけで。


「だ、だって櫻子さんのこと大切そうだったし、昔の話をする時も優しい顔してたから」

「櫻子は大切だけど妹みたいなもんだ。俺、昔の話なんかしたか?」

「転んだら泣いちゃうって」

「ああ、それは右京の話な。あいつと真宙も幼なじみだから。右京は昔から運動神経悪いんだよ。偵察のために登った木から降りれなくなってたし」

あの日、委員長が木に登っていたのは偵察のためだったんだ。

どうやら、猫はたまたまその場に居合わせただけらしい。

「そ、そうなんだ。私はてっきり、」

「俺が好きなのは瑠佳だ。狂猫との決着がついたら言おうと思ってた」

怜央はそう言うと私を自分の元へと引き寄せる。

「えっ……今なんて」


「俺の姫はお前だけだ瑠佳。右京が姫候補に瑠佳の名前を上げる前から、俺はお前に惹かれてたんだよ」

それだとまるで怜央は以前から私のことが好きだったように聞こえる。

「瑠佳は覚えてないだろうけど、高校に入学した頃、櫻子が駅で体調を崩したんだよ。俺は近くの自販機に水を買いに行ってて、戻ってくるとき瑠佳が櫻子に話しかける姿を見た」

その時に私のことが気になったと言う怜央。

「え、それだけで?」

「他人を思いやれる心を持つことは、十分すごいことだろ」