「確かに櫻子を護るために姫を雇った。だけど、それは瑠佳のことがどうでもいいって話じゃねぇ」

「……わかってる。護ってくれるんでしょ?怜央が、闇狼の皆が。だから、私は大丈夫」

「ああ、今度こそ狂猫の好きにはさせねぇ。だけど、姫を続けるならひとつ条件がある」

条件……?今まではそんなもの存在しなかった。

やはり、私ももっと気を引き締めろという話だろうか。

「俺にだけは甘えること」

予想外の言葉に口をぽかんと開ける私。

甘え……?甘えること?


「不安や恐怖を一人で抱え込むな。ずっとそうやって生きてきたんだろうけど、これからは俺が側にいる。お前が寄りかかったぐらいじゃ、俺は倒れねぇ」


「怜央の気持ちは嬉しいけどそれは……、」


幼い頃に母を亡くし、男手で一つで私と弟を育ててくれた父。

そんな父に甘えるのはわがままだと思っていた。

長女の私がしっかりするのは当たり前で、そんな生活に不満もなかった。


だから、甘えるのが嫌なんじゃなくてできないの。

「甘え方なんてわからないから」

私の言葉にはーっと深いため息を吐く怜央。

呆れられた。

たったひとつの条件も飲めないなんて。

そう思ったけれど、「瑠佳らしいな」という声が飛んでくる。