「……はぁ、……はぁ、」

何度も息を吐き出しながら隣に視線を移す。

怜央がいる……そうだ、ここは怜央の家で廃虚ビルなんかじゃないし、香坂もいない。

その事実に安堵して、怜央を起こさぬようこっそりベッドから抜け出した。

水が出ているとしたら洗面所かお風呂場、キッチンのどこかだろう。


しかし、どの蛇口もしっかりと閉められていて、水は一滴もこぼれ落ちていなかった。

私は夢でも見ていたのだろうか?

それとも幻聴?

どちらにせよ、このままじゃ眠れない。

何か飲み物でももらおうかな。

そう思って冷蔵庫に手を伸ばした時、掠れた声で「瑠佳……?」と呼ばれた。


「怜央、ごめん。起こしちゃった?」

「何してんだ?」

「……えっと、喉渇いちゃってお水もらうね」

「嘘」

「えっ……?」

ベッドから出て冷えきった体は、再び怜央の温もりによって包まれる。


「顔青ざめてる。目も涙目だし。……香坂のこと思い出したのか?」

せっかく起こさないようにベッドから出たのに。

笑顔を作って誤魔化してみたのに。

「……うん」


隠し通せなかった。