タクシーで移動すること1時間。

着いた先は怜央が一人暮らしをしているマンションだった。

姫だということを周囲にアピールするために、何度か足を運んだことがある。

状況が読み込めない私の横で、運転手さんに料金を払う怜央。


タクシーから降りると、再び私の手を取り歩きはじめた。


「ここ怜央の家だよね……?私、そろそろ帰らないとだめなんだけど」

タクシーにあった時計は20時を過ぎていた。

そういえば私、志貴に連絡すらしていない。

「今日はこのままうちに泊まれ」

「だめだよ。志貴が一人になっちゃう」

あんな経験をしたあとだからこそ、家に一人でいる弟が心配でたまらないのだ。


「弟のことなら真宙と冬馬に任せたから安心しろ」

そういえばビルから出るとき、怜央は真宙くんに何かを伝えていた。

「でも、」

「このまま帰したくねぇんだよ。瑠佳のことだから、弟の前では気丈に振る舞うだろ?」

怜央の言うとおりだ。

私はこのまま家に帰れば、何事もなかったかのように笑顔を作るだろう。

だけど、それの何がいけないのかわからなかった。