「……あれ、おかしいな。泣き出すかと思ったのに。君、全然可愛くないね」


「……よく言われます」


「へぇ、蓮見はずいぶんと面白いお姫様を捕まえたようだ」

香坂と会話をしながら辺りを見回すも、薄暗くて何もわからない。

聞こえるのは水の音だけ。


この静けさからして、多分ここには私と香坂しかいない。

「闇狼を潰すために私を連れ去ったの?」

「そうだとしたら?」

「冬馬くんはどうしたの?一緒にいたでしょ?」

意識を手放す前、冬馬くんの横にもう一人の男がいた。


多分、狂猫のメンバーだろう。


「雑魚は荷物になるから置いてきた。自分よりも他人の心配とは……。君みたいな子ならいつでもうちに歓迎するよ」

「誰がこんな卑怯な手を使う奴のところに……!」

「威勢がいいのは認めるが、舐めた口聞いてんじゃねぇよ」

香坂はそう言うと、ポケットから折りたたみナイフを取り出し、私の頬に当てがった。

ひんやりと冷たいそれはペチペチと音を立て、何度も頬にぶつかる。


「そうそう。そうやって大人しくしてたら、丁重に扱ってやるから」

「…………」

「ビビらせすぎたか?つまんね」

香坂は私の足元に唾を吐くと、内ポケットからタバコを手に取り火を着けた。