「───おかえり、エンちゃん」
「ただいま」
至極当然みたいに
彼から私に投げかけられる“おかえり”の四文字。
「あー、なんか」
なんか、泣けてくる。
「なに、どした急に」
熱くなった目頭を押さえ、慌てて皆から視線を外す。
燐の声が小刻みに揺れている。
…笑ってやがる。この男。
「“ただいま”なんて、一生言えないと思ってた」
“おかえり”なんて、一生言ってもらえないと思ってた。
「…ほんと馬鹿だなあ、エンちゃんは」
「…」
「言わせるよ。俺たちが何度だって」
呆れたような笑い声。
燐の細い指が私の前髪を掬い上げる。
そのままわしゃわしゃと毛髪を乱されれば
途端、堰を切ったように涙が流れ出した。