二度同じ失敗は繰り返さない。
少し声量を落として頭を下げた私に、棗は優しく微笑んでそう言った。
必然的に視線を合わせた先。
雄大くんの左隣の“彼”。
「燐が手当てしてくれたんだ、やっぱり」
「うん。相変わらず衛生兵やってるよ」
「さすが」
「…おだてても何も出ないよ」
「あはは」
───久保塚 燐、17歳。
六代目『狼』幹部。
衛生隊長(?)とミオが呼んでいた。
甘いルックスに、柔らかい栗色の髪が良く似合う美少年。
彼は昔から、異様に女子力の高い男だった。
手先が器用でなんでもできる。
そのくせ『女子力が高い』と言われると、冷淡に私たちを睨みつけたりした。
…私は真面目に褒めていたのに。
そういう子。
で。
燐とだけは唯一、今日が正真正銘数年ぶりの再会である。
「…炎ちゃん」
───エンちゃん。
昔から彼だけが私をそう呼ぶ。
そしてそれは例外なく、今にだって当てはまる。
「久しぶりに聞いたな、その呼び方」
「てことは、今周りにそう呼ぶ人はいない?」
「…いたら怖いよ」
「あはは、嬉しい」
改めて浮き彫りになる懐かしさ。
溺れる私の心は、もうすっかり温い。