「棗、」
「…セリナ」
「こないだは、その、なんていうか」
「こっち来て、セリナ」
謝ろうと思った。
他の誰でもない、棗に。
言わなくちゃならないことがたくさんあった。
「…え?」
「だから、こっち、来て」
「いや私今、謝ろうと、」
「それは聞くよ。聞くから、その前にこっち」
だから謝ろうと腰を折れば、棗の声が私を制止した。
「ほら、セリナ」
その催促に応え、素直に棗に従って
言われるがまま、彼の目の前に立った。
そうしたら今度は背後から不可思議な視線を感じて。
振り向けば嫌な予感が加速する。
背中の向こう。
ミオが笑っていた。うんと妖しく。
「セリナ、」
そんな私を、再び棗が呼びつけるので
私も今度こそ大人しく棗の方を向いた。
「…セリナ」
「…うん」
今度こそ。
ここにいるよ。しっかりと。
もう、逃げないよ。
そんな元気残っていないから。
「…やっと」
───かと思えば。
「っん、」
その大きな掌は次の瞬間、私の両頬を手荒く包み込んだ。