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───ん
「んー、私はいいや」
燐からの“お前も吸え”という催促を、少し悩んで断った。
もうなんだか胸がいっぱいで
今その煙を吸い込めば、息が出来なくなる気がした。
「え、いらないの?」
「うん…ごめん今はちょっと」
「つまんない」
燐が空へ煙を吐き出す。
汚い煙を、慣れた手つきで。
私は燐の横顔をしばらく眺めて
その画をしっかりと目に焼き付けた。
「…吸うようになったんだ、燐」
「あーそっか、エンちゃんは知らないだね」
“知らない”。
言葉に詰まった。
私は、こんな風に息をする燐を知らない。
…愚問だ。
私が知っている彼等はほんの一部。
今の彼らの、ほんの一部にしか過ぎないのだから。
私が消えたあとも。
彼等はここで息をしていたのだから。
「…随分治安の悪いナースになって」
「あはは、…そうだね」
「…そっか」
「腕の良い医者は良い逃げ道を見つけちゃうもんさ」
「危険な匂いのするナースは好きだよ。萌える」
「わはは、エンちゃんがキモい」
私の知らない彼等がいるのは、自然なこと。
ごく当たり前に、私が自分で蒔いた種。
それが熟れてしまっただけのこと。
自然の摂理。
「…これでも一か月は我慢してたんだけどね」
「意思弱」
「ひどいなー誰のせいだと思って」
「え、私?」
「勿論」
燐は軽く言ってみせる。
その横で、私は彼から目を逸らす。
「あっという間にニコ中だよ」