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「ミシェルそれは本当?」


ミシェルはリアの気性もロレンツオの性格も知っていたので悩みに
悩んだ挙句、ウイリアム邸へと
相談に行った。

スカーレットもウイリアムも
ロレンツオとリアが同じ娘を
好きなことは良く分かっていたが
ミシェルの調べた身元調査を見て
モーリス アンダーソンの娘だと
初めて知ってビックリ、スカーレットもウィリアムも腰を抜かしそうに
なった。

この前のパーティの招待状リストは全てウィリアムの部下にまかせていた。

勿論、子爵家なら案内状もフローレンスには発送されていたはず
なのにフローレンスはメイドとして現れていた。
2人がリストに目を通していたら
モーリス アンダーソンの娘
つまり妹ケニーの孫娘と直ぐ分かっていただろうに・・・
ウイリアムは、もう85を超えた身だ仕事も任せる所は任せたい。



「あ、あの子がルーシの娘、
カールがルーシの息子」
スカーレットはびっくり仰天

ウイリアム スミスの妻
スカーレットはブルブルと震えた。
何回も式典や、パーティの護衛で
カールには会っていた、しかも
フローレンスはメイドとして
この屋敷に来ていたのだ!



「ああ、神様のお引き合わせだわ」
スカーレットとウィリアムは
抱き合って泣いてしまった。

ちょうどスカーレットがウイリアムと結婚した頃ルーシが生まれた。

ウイリアムの末の妹ケニーが産ん
だ娘、ケニーは婚約していた相手
が戦地へと向い、とうとう帰っては来なかった。妊娠していたケニーは、ルーシを産むと部屋にこもりあんまり外へ出ないようになり
彼が戦地から帰るのをただ待つようになっていた。

ルーシは家族に可愛く大事に育て
られ、16歳で社交界デビューした時、運悪くルーシより30歳上の公爵に見初められた。

断る事も叶わずルーシは毎日泣いていた。

ケニーはそんな娘を見る度
悲しい気持ちになっていた。

どうにかしてあげたい。
そう思ってもミガンダは相当な権力を握っていて、ウイリアムも
刃向かうことは王にも反逆者と
捕らえかねられないくらい行動の
出来る奴だった。

そんなこんなでウイリアムも
どうにも出来ず頭を痛めていた。



そして思わぬ方へ時は動きだした。



ある日道に迷ったモーリス
が橋の上に立つルーシを見つけた。

「・・・何をしている?」

馬に乗ったモーリスを泣きながら
ルーシは見つめた。

あまりの男前のモーリス
にルーシは一目惚れしてしまった。

「え、なんでもありません。」

モーリスは馬を降り
「ないてるのに、なんでも
ない事は無いだろう。」
と聞いてきた。

グスングスンと泣いていたルーシが
口を開く!

「ミガンダ様の後添えにと
言われお断り出来ないのです。
ミガンダ様は46歳で・・・
私は16歳です。
あのお方への嫁入りは嫌です。」



「そ、そうか私も30過ぎて
おるから他人事ではないなハハハ!」


「い、いえ!そんな事は
ありません。」

ルーシはモーリスの顔を見て
叫んだ!

「え、あ、アハハハ
ありがとう。
ミガンダとは、あの公爵家の
跡取りか?」

「そうです。私、帰りたくない
嫁入りの支度させられる。
あんな、脂ギッシュで
小太りで、見るからにいやらしい
笑いを浮かべる男の人
絶対イヤ」




「・・・可哀想だが
私にはどうもしてやれない。
公爵家ミガンダなら
一生困る事なく裕福に
暮らせるだろう。
帰りなさい。」

そう言うとモーリスは馬に跨り
走り去った。


気になり中々前に進めない
馬は勢いをとめ

カッン、カツンと足音をたてる。
モーリスは思い立ったように
踵を返し橋の所まで
又馬を勢い良く走らせた。

するとルーシは橋の上にたち
川へ身を投げようとして
目をつむり祈りを捧げて
飛び込んだ❗



モーリスが馬から飛び降り
危機一髪で腰に手をまわし抱え
こんだ。

ビックリしたのはルーシ

焦りなが汗を拭く
モーリスは

「な、何をしている
死ぬぞ!」

長雨の後の川は水嵩も増し
轟轟と音を立てていた。

そこへルーシを探し回っていた
ウイリアムとスカーレットが
「ルーシ」
と叫び駆け寄って来た。



「あなた、こんなに嫌がって
可哀想です」
とルーシの髪を撫でてスカーレットは涙を流した。

「う・・む、私も乗り気では
ないのだよ。
きな臭い噂もあるし、しかし
断る理由が無いのだ。」


ルーシはワンワンと泣きながら
「お嫁に行くなら
私この方がいいです。
お優しそうで・・・」

それを聞いたモーリスも慌て
ふためく!

「え?私、ダメダメ自慢じゃないが
金は無い‼️
あなたを充分養えるかも
危ういくらいだ!」

ルーシも必死で縋り付く
「いいです
食べれなくても!」



その言葉にモーリスは慌てて
「いや土地は充分にあるから
食べさせるのはいい
しかし貴方が満足いく裕福な
生活が約束できない。
何も買えないし
着飾る事もできません。」


「貧乏な方がいい」

「しかし!タダの貧乏では無いぞ
超がつく程のド貧乏なのだぞ!」

ルーシは大人しく控えめだが
こうと言い出したら後には引かない性格だとウイリアムは知っていた。
ウィリアムは青年に聞いた。

「分かったルーシ❗
無礼とは思いますが
あなたは、どちらにお住い
ですか?」

まあ自己紹介しなくても貧乏で
有名な子爵家だが・・・
ルーシという娘とこの2人の服を
見れば裕福な事は見て分かる
とても、無理な話だ。

「私はハルギール地方にある
子爵家の跡取り
モーリス アンダーソンと
申します。
貧乏で有名なのですから
彼女を連れ帰っても充分な
生活をさせてやれない事は
お分かりでしょう。
私では彼女を幸せには出来ない
のです」


モーリス アンダーソンと聞いて
ウィリアムは一瞬とまどった。

人が良くて人間味溢れた人格と聞くがそれが仇となり生活が上手く
回らない、つまりはお人好しなのだ!
しかし良い奴だと噂に聞く


「いや、貴方の人望、信頼は
良く聞いています。
私はウィリアム ・スミスと
申す者です。

ルーシを、お願い
出来ませんか、預かって貰う
だけでよいのです。
あとはコチラで何とか
します。
あなたにご迷惑がかからない
ように致します。
あなたならルーシは幸せに
なると思います。」

ウィリアム、ウィリアム ・スミス?
モーリスは戸惑った、噂高い
ウィリアム ・スミス
王室出のスカーレット様の嫁ぎ先
ウィリアム ・スミス
この方が?
じゃあコチラはスカーレット様?
モーリスは目を見開いて2人を見た。

「この子は我が妹
ケニーの娘です、気負う事は
ありません。
もうあなたに頼むしか無い‼️」
ウィリアムは切羽詰まったように
懇願してきた。

「し、しかし!」
モーリスもルーシの情熱をヒシヒシと感じながら愛おしい感情も
沸いてきた。
そしてルーシのウルウルとした
涙目に落ちてしまった。



モーリスも自分と戦っていた
連れて帰っても今の経済状況で
幸せに出来ないのは明らか・・・
しかし
彼女を大事にしたい気持ちも
幅をきかせている。



ただ鳥の鳴き声と流れる川の水の
音と静寂が四人をつつんでいた。


フウー
モーリスの溜め息が静けさを破る。





「分かりました、ウイリアム様と
接点が有れば怪しまれるでしょう
今後一切関わらないように
いたしましょう
ミガンダは蛇のように執拗いと
知っています。
彼女は私がお預かり致します。」

幸せにしますとは言えない!
それが口惜しくてたまらない。


「行こう」

モーリスは馬に跨ると手を伸ばした
ルーシも手をとり馬の背に乗り
走り出した。

風が少し暖かくなり始めた
晴れた気持ちの
いい日の出来事だった。
モーリスの背中からルーシも
振り返る急な別れに叫ぶ

「お母様にー、幸せになります
と伝えてー、伯父様伯母様ー
ありがとうー」

道端に咲く黄色いたんぽぽの花が2人の走り去る道を両側から飾っていた。

そんな日々が続くある日
変な噂が広がった。


噂では山に出かけたルーシが
帰って来ないのでクマに襲われ
たという噂で、もちきりだった。
脱ぎ裂かれた服がルーシの物だと
屋敷内の使用人が証言した。


こうしてルーシは無事モーリスの
妻となりウイリアム家には
それ以来足を踏み入れる事は無かったと言う。

ミガンダ公爵は渋々仕方なく
諦めたと聞いた。
今は80を超えた老人だがマダマダ美人を見たら、あわよくばとエロ心を丸出しにして金と地位で妾を沢山囲う程元気なのだとか・・

しかし最近は
彼の子供達も50越え
それを許すはずも無い‼️

ウイリアムもスカーレットも
ルーシとモーリスを気にしながら
も、怪しまれる事が無いように
疎遠になったという訳だ。

モーリスとルーシの新婚生活
は貧乏でカッカッの状態
だったが使用人も忠実で
食べ物には困らず、幸せに過ごしていると聞いて
スカーレットも、ウイリアムも
安心していた。
ミガンダにバレないように
最善の策を練り、モーリスの
敷地には二人は一歩も足を踏み入れる事は無かった。


ルーシを守る為に!