「って、みんな周さんの噂してました。」
その日、香魚子は仕事が終わると周の部屋にいた。
「“一生ついていきます”は困るね。辞めるし。」
周は苦笑いした。
「でもピーコックもこれから良くなる気がします。」
「辞めたくなくなった?」
香魚子は首を振った。
「ミモザのカードをちゃんと入稿したら辞めるって言います。」
「そっか。」
「あの時周さんが最後に言った“ピーコックラボが見るべきなのは社外のライバル”って言葉、あれって戦線布告…ですよね。」
香魚子の言葉に、周は口角をあげた。
「わかった?」
「私も周さんと一緒にピーコックのライバルとして頑張りたいです。」
香魚(アユ)の逆襲。」
そう言って周は笑って香魚子の頭を撫でた。
「香魚子、あらためておめでとう。よく頑張ったね。」
「…………」
「ん?」
周の言葉に、香魚子は泣き出した。
「…本当は…本当はすごく怖かったんです。周さんのためのデザインなのに、もう二度と使えなくなったらどうしようって…ダメだったらもっと良いデザインをすればいいって何度も自分に言い聞かせてたけど…本当に本当に良かったです…ありがとうございました。」
「香魚子の実力だよ。ていうか、俺のためにデザインしてくれたんだから俺がお礼言わなきゃいけないのに、なんか変だね。ありがとう。」