「鷲見チーフのデザインはさすがベテランというか、他のデザイナーと違って一定の売り上げが確実に見込めるんだよね。使い回しだってよくあることで、悪いとは言えない。」
———ハァ
周は今度は大きな溜息を()いた。
「鷹谷部長、あなたも何もわかってないんですね…」
「え」
「“他のデザイナーと違って”?そもそも、平等にチャンスは与えられていますか?“鷲見さん以外は売れない”みたいな、変なフィルターがかかってるんじゃないですか?」
周の口調は冷静だが、怒りを感じさせた。
「すぐに売れるデザインが作れない若手のデザイナーを、売れるデザイナーに育てるのが鷹谷部長と鷲見チーフの仕事でしょ?若手育成しないなんてただの職務放棄ですよ。」
周はさらに続けた。
「ここにいる営業全員わかってると思いますが、鷲見さんのデザインの商品はどんどん売り上げが下がってます。バースデーカードだって発売するたびに“前回より売れない”を繰り返してます。なんならJOFT(ジョフト)各店の売り上げ、数字で提示することもできますよ。それなのに今回も同じようなデザインを、目新しい仕様変更もなく、同じイラストを使って発表された。客観的に見て前回よりも売れると思われますか?目白部長。」
目白は言葉を詰まらせた。
「店の担当者だってエンドユーザーだってバカじゃない。時短を言い訳に手抜きしてたら飽きられて客が離れますよ。営業だって同じような商品を同じような説明で売り続けて、楽しくないですよね。この中で誰か自社商品にプライド持って営業できてる人はいますか?いい加減目を覚ましてください。ピーコックラボが見るべきなのは社外のライバルと、将来の会社の在り方です。お騒がせして申し訳ないですが、明石からは以上です。」
周はマイクを置いた。
会場はしばらく静けさに包まれた。

———パチパチパチパチ

どこからか、拍手の音が聞こえた。
「お前…」
目白が動揺した表情(かお)を見せた。
拍手をしたのは鴇田(ときた)だった。拍手は川井や他の営業にも伝播し、デザイナーたちも拍手していた。