さすがというべきか、周の進行はスムーズだ。聞きやすい声に、ちょうど良い喋りの速さ、そしてどうやら午前中に事前資料を読み込んだらしく、デザイナーが説明に詰まるとヒントになるような質問をしてサポートしてみせた。

「じゃあ次は4番の…福士さんお願いします。」 
周が香魚子を指名した。
「え!?」
そう驚きの声を発したのは鷲見(すみ)だった。
「鷲見さん、どうかしましたか?」
周が言った。
「え、だって次は…」
「あれ?鷲見さんは次が誰だかご存知なんですか?」
「えっ…いや…」
発表の順番はエントリー順で、当日呼ばれるまでわからないことになっている。
「鷲見さんも早く発表したいくらい、今回のコンペは気合い入ってるってことですね。みなさん楽しみにしてましょう。」
会場は笑いに包まれたが、鷲見は困惑した顔で目白を見て、目白はますます忌々し気な目つきで周を見ていた。
「じゃあ福士さん、お願いします。」
「はい。」

進行役は発表するスクリーンの横に席を設けているため、香魚子が発表の場に立つ前には周の前を通る。その瞬間に香魚子は少し緊張したが、周は特別なことは何もせずただの進行役として香魚子を送り出した。

香魚子は小さく深呼吸をしてからマイクをオンにした。
「それでは発表を始めますので、スクリーンをご覧ください。」
いままでなら緊張していた第一声から、今回は落ち着いていた。
香魚子のプレゼンは相変わらず完璧だった。デザインのコンセプト、販売のターゲット層、販売価格、素材、コスト面の懸念事項とその解決策の提案、パッケージのイメージとそれを店頭で什器展開した際の見え方まで考えられている。香魚子は普段から自社だけでなく他社の商品についてもリサーチを欠かさないため、並の営業よりも店頭の状況に詳しいくらいだ。
「すごい…」
香魚子がプレゼンを終えると川井が感嘆の声を漏らした。
質疑応答の時間になり、質問の手が上がる。香魚子は前回のレターセットの時のことを思い出して身構えたが、驚くほど好意的な質問ばかりで拍子抜けしてしまう。
———ハイ
(え…)
予想外のところから手が上がった。
「俺からも質問いいですか?」
声の主は周だった。
「は、はい。どうぞ。」
香魚子は少し動揺してしまった。