「おつかれ。」
暗がりで一瞬わからなかったが、明石だった。香魚子はぺこりと頭を下げて席に戻った。
(そっか、明石さんも見てたのか…営業だもんね、トップ営業マンだもんね…)
何度かプレゼンをしているが、営業部の人間を意識していなかったため明石の存在にも気づいていなかった。知り合いに見られていたと思うと今さら緊張しているかのように心臓がドキドキと早鐘を打っている。
(…知り合いだから…?)
ただ知り合いに見られていただけなら、こんな風にドキドキしたりしないかもしれない。先日明石に言われた『ずっとどんな人か気になってたけど、想像よりも色んなこと考えてそうでおもしろいね』という言葉が、さっきの『おつかれ』と交互に頭のなかで繰り返された。

今日のプレゼンはおもしろかっただろうか?
おもしろいと思っていてくれたら嬉しい。

香魚子はそんなことを考えながら、その日一日を終えた。