「…でも私、決めたんです。」
「ん…?」
「会社辞めたら、フリーランスでやっていこうと思ってて。それで、明石さんの会社ともお仕事できたらなって思ってたんです。」
「フリーランス?なんで?」
「明石さんとデザインのお話するのは楽しいし、明石さんも柏木さんも私のデザインが好きって言ってくださるので嬉しいんですけど…それだけじゃ成長しないと思うんです。もっといろんな人に、デザインに、仕事に触れて…それをデザインに活かしたいなって思います。」
香魚子は明石の()を見て言った。
明石は少し考えて、ほんの少しだけ残念そうな顔をした。
「うん…たしかにそうだね。ちょっと残念だけど良いと思う。でも俺が作る会社をメインに仕事してくれたら嬉しいけど。」
「はい。」
香魚子ははにかんだように笑った。
———ハァッ
明石は溜息を()いた。
「デザインのことになると、本当に良い表情(かお)するね。」
「…自分では全然わからないです…」
香魚子の頬は相変わらず赤い。
「抱きしめていい?」
明石が真顔で言った。
「えっ!!!!っわ」
香魚子が同意する前に明石は香魚子を抱きしめた。
それ以上赤くならないと思っていた香魚子の顔はさらに真っ赤になり、また全身が心臓になってしまったようにバクバクと鳴っていた。