「えっ!…あ、えっと…他に行くんですか?」
香魚子の質問に明石は首を振った。
「会社を作る。柏木と一緒に、ピーコックと同じ業種の文具の会社。」
「…え」「え?」「えっと」「あ」「それは」「すごいです!」
香魚子がビックリして細切れに言葉を発すると、明石は笑った。
「それで、福士さんにその会社に入って欲しいんだ。デザイナーとして。」
「……え?」
香魚子はポカンとして、状況が飲み込めていない。
「福士さんが本当にやりたいデザインができる会社にする。だからいっぱい考えてもらいたかったんだけど、何も言ってなかったから悩ませちゃったよね。これが大事な話の二つ目。」
「………。」
「大丈夫?」
香魚子は首をぶんぶん振った。
「ぜんぜん…全然言ってる意味がわかりません…」
香魚子が泣きそうになりながら言うと、明石は笑った。
「最初から満足な給料を出せるとは約束できないから、本当はもう少しピーコックで安定した仕事をするのも福士さんの為かなって思ったけど、こんな状況だから言わないわけにはいかなかった。」
「………。」
「これは人生を左右することだから、指切りみたいな軽い約束で決められることじゃない。2週間、よく考えて答えをもらえないかな?」
「にしゅうかん…」
香魚子は放心状態だったが、コクっと頷いた。
その夜は明石が香魚子をタクシーに乗せて見送った。タクシーの中の香魚子は夢か現実かわからないような思考回路でぐるぐると考えを巡らせていた。