香魚子の視界の先にいたのは、鷲見(すみ)と営業部長の目白(めじろ)だった。
「え…」
香魚子には状況が飲み込めない。
「あの二人、デキてんだよ。こういうイベントの時は毎回二人でホテルに泊まってる。」
「…えっと、えっ…あの…営業部長さんはご結婚されてるはず…」
いつかの社内報で、家族のことについてインタビューに答えていた。
「うん、不倫だね。」
明石があっさり言う。
「正直さ、付き合ってようがそれが不倫だろうが、プライベートの問題だからどうでも良いんだけど、あの二人は仕事に私情を挟んでるのが俺的にはナシなんだよね。」
「どういう…」
香魚子は目の前で起こっていることに理解が追いついておらず、明石の言葉もうまく理解できない。
「鷲見さんのデザインばっかり、なんで選ばれてると思う?なんで店に並んでると思う?」
「え、それって…」
「目白さんが営業の若手に指示出してコンペの票の操作してるし、店にもゴリ押しで導入させてるんだよ。鷲見さんの商品の売り上げは下がってるのに。それで多分君の倍は給料もらってるよ。」
「そんな…」
「だから福士さんが良い企画して徹夜して資料作って完璧なプレゼンしても、ピーコック(この会社)じゃ意味ないんだ。こんな会社のために福士さんが悩むのも泣くのも勿体ない。」

『完璧な資料だったもんな。…でもこの会社じゃ…』
『ピーコックは君の才能を活かすには濁りすぎた水だから』

明石の言葉の真意がはっきりした。
(ああ、あれはそういう…)
———ふらっ…
香魚子の目の前が一瞬暗くなって倒れそうになったのを、明石の腕が支えた。
「大丈夫?」
「すみません、えっと…寝不足と…ちょっと頭が混乱してしまって…」
「無理ないな。医務室で少し休ませてもらおう。」
「え、大丈夫です、帰れます!」
「いいから。」