「今年もJSOT(ジェイソット)に出展します。」
企画部長の鷹谷(たかや)から発表があった。JSOTとは、毎年夏に3日間の日程で開催される文具業界最大の商談会である。会場も大規模で、各社のブースも壁紙や照明などにまでこだわった大掛かりな施工をする。新商品もたくさん発表され、メディアの取材も入る、お金のかかるイベントだ。会社としてもプライベートショーとはまた違った力の入れ方をする。
「JSOT…?」
「ああ、福士さんは初めてだね。一年で一番大きなイベントだから、忙しくなるよ。当日はデザイナーも商品の説明役でブースに立ってもらうから。」
「はい。」
(他の会社のブースとかも見れるかな。もしかして新商品とか見れるかも?)
プライベートでも文具が好きな香魚子にはイベント自体が楽しみだ。
「今福士さん達が担当してる商品も並べるわよ。あのシリーズで新商品も増やすから、よろしくね。」
鷲見(すみ)の言葉に少しテンションが下がる。
(あのシリーズの説明役かぁ…。)
「そういうことで忙しくなるから、しばらくはみなさん残業も覚悟してください。」
鷹谷が言った。

鷹谷の言った通り、JSOTの準備期間に入ると残業も増えていった。
香魚子は相変わらず鷲見のイラストを編集する商品デザインばかりを任されている。商品の数もどんどん増え、JSOT用の説明パネルの作成業務などもあるため、考えるよりもこなしていくことが重要になっていた。