「ひゃ、はい…」(あ!変な声になった…!)
「福士さん、今大丈夫だった?」
「は、はい!」
(耳元で声がするの、なんかくすぐったい。)
「夜遅いのにごめんね。送ってくれたデザイン見たよ、ありがとう。ちゃんと見て、直接感想言いたかったから電話しちゃった。」
(…しちゃった、ってなんかかわいい…)
「私、夜型なので全然、全然大丈夫です。」
「俺は眠いけど。」
「え、わぁ!ごめんなさい!」
「うそうそ。俺も夜型だから大丈夫。」
電話越しに明石の「ハハハ」と笑う声が聴こえて、ますますくすぐったい。
「今日送ってくれたのはノートのデザインだよね?」
「はい。最初なので、とりあえず柄をデザインしてノートのフォーマットに落とし込んで送ってみました。少しレトロな雰囲気にしていて…」
「どれもすごく良いと思ったよ。とくに…」
明石は香魚子が送ったデザイン一つ一つに丁寧にコメントをくれた。褒めるだけでなく、今までに文具バイヤーや文具店の店員に聞いた売れる商品の情報などを交えて、明石なりのアドバイスもくれた。
「すごく丁寧にありがとうございます。」
「当たり前だよ、せっかく送ってくれたんだから。あれから少し時間がかかった気がするけど、デザイン結構悩んだ?」
食事会の日の約束から、香魚子がデザインを送るまでの日数のことを言っている。
「…いえ、実は…あれから毎日のようにいろいろデザインしてたんですけど、明石さんもお忙しいのに本当にご迷惑じゃないのかなって……思いまして…」
「えっそうなんだ。実は毎日結構楽しみに待ってたんだよね。」
「え!?」
「そんな驚く?俺が見たいって言ったんだよ?とにかく迷惑どころか楽しみにしてるから、変な遠慮しないでいつでも送ってよ。」
「はい。」
「つーか、こんな時間に電話してて大丈夫だった?ご家族に迷惑だったかな。」
「一人暮らしなので大丈夫です。これから映画でも観ながらもっとデザインしようかなって思ってたところなので。」
「映画?何観んの?」
「えっともう何回も観てるくらい好きなんですけど……」
香魚子が好きな映画の話をすると、明石もその監督の映画が好きなことがわかった。
好きな映画から、好きな音楽、好きな漫画まで話が盛り上がった。
香魚子は時計を見た。
1時30分 とっくに金曜になっていた。
「もうこんな時間!平日なのにすみません!」
「いや、こっちこそごめん。映画も観れなかったね。じゃあまた明日。おやすみ。」
「映画は何度も観てるやつなので…おやすみなさい。」

(はぁ、楽しかったけど…ドキドキしてたから半分くらい何話したか覚えてないかも)

(………嘘。そんなことない…映画のことも音楽のことも、笑ったタイミングも覚えてる…)

香魚子は明石との話の内容を何度も反芻(はんすう)しながら短い眠りについた。