「…私のデザインて、この会社に合ってないのか…その、全然選ばれなくて。商品化されても、鷲見チーフとか他のベテランの方の商品みたいにはお店で見かけないので…。今回はちゃんとこの会社“らしさ”を意識したものを作ってみようと思ったんです…。」
「なるほどね。うん、狙い通りにはできてると思う。プロだね。」
「……ありがとうございます…。」
そう明石には褒められたが、香魚子の中にはなんとなく罪悪感のようなモヤモヤした気持ちが芽生えていた。
「福士さん的には納得いってないんだ?」
「…そういうわけでは…」
「……ふーん。」
明石は香魚子の表情をうかがい、なにかを考えているようだった。
「おっと、喋りすぎたな。続きやろうか。」
香魚子と明石は設営作業に戻った。黙々と作業を続けていると、ふと同僚の言葉を思い出した。

『女と二人で歩いてたらしいよ。』

(…彼女、いるんだよね。)
「…明石さんがデザインに詳しいのって、彼女さんの影響ですか…?」
「え?」
香魚子の急な質問に明石は驚いたような表情(かお)をした。
「俺、彼女いないよ。」
「え!?わ、えっと……そうなんですか…?この前 表参道で女性と歩いてたって、女子が噂してたので…変な質問しちゃった…」
「表参道…ああ、あの日か。別に彼女とかではないよ。半分仕事。」
(半分…?)
「どこで見られてるかわかんないな。(こえ)ーな。」
明石は苦笑いした。
(…そっか彼女いないんだ…。)

「福士さんさ、今日会社戻るの?」
「いえ、直帰して良いことになってます。」
「時間あったら(めし)付き合ってもらえない?福士さんに会わせたいヤツがいるんだよね。」
「え!?ご飯、ですか?」
突然の誘いだった。
「ダメ?」
「い、いえ、大丈夫です!超ヒマです!」
香魚子がテンパっているのがおかしいのか、明石は笑った。
「誰かに見られるとちょっと面倒だから、店で待ち合わせでもいい?LIME教えてもらえる?」
「はい!えっと……」
(明石さんとご飯…明石さんのLIME…!会わせたい人って誰??)
香魚子の頭の中は処理しきれない情報でいっぱいだった。