「聞いた?今度入る新卒の女子、明石さんが教育係らしいよ。」
香魚子が仕事をしていると、企画デザイン部の同僚が話しているのが聞こえてきた。“明石”の名前に反応してしまう。
「それって企画デザイン(うちの部)希望で入ってくる子?」
「そうそう。」
ピーコック社では新卒入社の社員は希望に関わらず、最初の一年は営業部に配属される。その一年、教育係の先輩社員とおもに行動を共にして会社のことや仕事のことを学んでゆく。
「えー!なんで明石さんなの?超羨ましいんだけど!私も教育して欲し〜い!」
「なんかその新人、めっちゃ美人らしいよ。」
「え〜なんか本格的に明石さん取られちゃうんじゃない?」
「取られちゃうって、誰のものでもないでしょ。てゆーか、明石さんに彼女いないわけなくない?」
「まぁそれはそうかもしれないけど〜!社内で女といるとこ見たらテンション下がる〜。うちに配属になったらいじめちゃうかも〜。」
「ちょっとー怖いんですけどー。でもちょっとわかるわ。」
会話をしている二人は笑っているが、嫉妬に満ち溢れた空気が出ていてなんとなく怖い。
(明石さんて本当にファン多いんだ…。美人の新人さんかぁ…。明石さんてどういうタイプが好きなんだろう。)
会話を聞いていた香魚子も頭の中でいろいろと想像していた。

『明石さんに彼女いないわけなくない?』

同僚の言葉が耳に残った。

数日後
「ねえねえ総務の雁屋(かりや)さんがさー日曜に見たんだって、明石さん。」
同僚たちがまた明石の噂をしている。
「どこで?」
「表参道?だったかな。それがさー、女と二人で歩いてたらしいよ。」
「えー!じゃあもう彼女持ち確定じゃん…!」