この人には、ちゃんとわたしの声が届いていた。



「あの…、えっと…総長さん。助けてくださって、ありがとうございました」

「礼なんかいらねぇよ。それに敬語もいらねぇ。あと、『総長さん』って呼び方もやめろ。なんか…しっくりこねぇ」

「…じゃあ、なんて呼べば?」

彪雅(ひゅうが)…」

「…彪雅?」

「ああ、それが俺の名前だ」


…なぜだろう。


名前を知った。

たったそれだけのことなのに――。


どこかうれしくて、なんだか親しみやすくて…。


「彪雅。助けてくれて、ありがとう」


わたしは、微笑みながらそう言えた。


そんなわたしに向かって、彪雅は大きなタオルを投げつける。


「…だから、礼なんかいらねぇって言ってるだろ。とにかく、風邪引くから早く拭けっ」


その口調とは裏腹に、わたしのことを気遣ってくれる優しさに、少しだけキュンとしてしまった。