冬の寒い頃だったが、結花の姿を見た支援団体の男性が「寝食、職場が保障されているところがあるので、いかないか」と誘った。
 働くのは不本意だが、衣食住そろっているならとすぐに話に乗り、その場所へ向かった。
 
 都内から車で1時間ぐらい離れた辺鄙な山奥の施設だった。
 まるで刑務所のような要塞と無機質な鉄筋コンクリートの建物。
 まるで隔離されたような村と言えばいいのか、数百人の男女が集団生活をし、せっせと畑仕事や工場仕事をしていた。
 服は冬の時期にも関わらず、薄着の青のジャージだった。男女問わず。
 結花の中に嫌な予感が走ったが、もう引き返せなかった。
 ここに入ると一生出られない。同行者兼紹介した男性――洲本(すもと)が運転中に言った。
「え? ここなに?」
 洲本に尋ねても「農業工場」と答えるだけだった。
「なんで、こんなにみんな薄着なの?」
 その瞬間洲本は「つべこべ言わずついてこい」と口調が荒くなった。
 公園で声かけられた時は穏やかだったのに、ここに来て急に豹変した。
 洲本についていくと地下室のような建物が見えた。
 大量の電灯とエアコンに遮光するかのようなカーテン。何か甘いにおいがした。思わず鼻をつまむ。
 白みを帯びた緑色の葉っぱが見えた。