傍聴席は「メンタルやばっ」「無罪狙ってるとか?」とざわめく。
 再び裁判官から静粛にと言われ、厳粛な雰囲気に戻った。
 別室で待機している稲本夫妻と悠真は、結花の証言を聞いてめまいがした。

「お父さん、よくこんな人と結婚してたね。私なら即離婚する」
 陽鞠が突き放すような口調に悠真は「そうだな」と短く答えた。
 結花が母親という消えようがない事実にいらだちを隠せない。そんな人と結婚していた父にも。
「陽鞠、お義父さんを責めないで」
「でも、この子達にも私の血が入ってる。引いては――」

 トラブルメーカー、前科持ち、自己中な人の孫というレッテルを貼られるだろう。
 たとえ私達夫婦がまともでも、あの人の血縁関係の事実は消えない。

 ――蛙の子は蛙。

 この言葉が脳裏によぎる。再び陽鞠の心に呪縛がかかる。
 私はあの人に屈しないと決めた。
 マスコミに色々聞かれてもノーコメントを貫く。
 たとえあの人と血縁上の関係があっても、私は私。子供達は子供達。関係ないし、私達の平穏な生活を自分達で手に入れる。
 蛙の子は蛙って言うが、鳶が鷹を生む場合だってあるんだから。