ホームレスになっちゃうし、家族の居場所は分からない。お金も全然ないんです。
 働いても勤め先の人にみんなに嫌われて、生きていくのに精一杯。
 病気の母がいて心配だから、一緒に住みたいけど金銭面がね、大変なんです。
 母は唯一私の味方なんですよ。だからね、大事にしたいんです。

 咲羽は少し泣く演技をして、神田に上目使いする。
「そりゃ、大変だな。よし、今日おじさんがご褒美に買ってやろう! 夕芽華ちゃんもな」
「じゃぁ、これがほしいなっ」
 咲羽は高額なスチーム美顔器をスマホで検索して見せた。
「私はこれがほしいです」
 夕芽華が欲しいと申し出たのは、同じく美顔器だが、こちらは電動で洗顔出来るタイプだ。
「いいよーいいよ。おじさんすぐ買っちゃう」
 次いつ来るのと聞かれたので、2人はそれぞれの出勤日を答えた。
 ボーイから神田の注文の品が来た。
 神田は「ありがとうな!」と陽気にお礼を言って、一口つけた。

「ねぇ、あのさ、聞きたいんだけど、神田さん、長谷川ひかるって作家、ご存知ですか?」
「今やってるドラマでしょ? "母親もどき"って作品。俺の嫁さんが観てるんだ。主役目当てで」