社食に行ってもいいと浅沼に言われたので、気分転換に行くのが日課だ。
 結花はトレーに置かれた豚肉の生姜焼き定食を抱えて、席に向かう。
 野澤が見えたからだ。
「あ、野澤くーん? 相席していい?」
 先に座っていた野澤は顔を見上げて「お疲れ様です」と返した。
 結花は席に座るなり、野澤の弁当をチェックする。
 卵焼きやきんぴらゴボウにからあげにしらすごはんと詰め込まれている。
「へー、すごいねぇ。自分で作ってるの?」
「ちょ、ちょっと、何見てるんですか?!」
 結花の弁当に対するコメントに、思わず声をあげた。
 食べている途中だが蓋を閉めた。
「いーじゃん。誰が作ってるの? 自分じゃないの? もしかしてお母さん? うわぁーまざこーん!」
 結花はからかうが野澤は「誰でもいいじゃないですか!」と真顔で答える。
「あなたみたいな人に教える義理なんてありません」
「けちぃ。じゃぁ、みんなに『野澤くんはマザコン』って言っとくよ。黙ってたら認めることになるよ? いやー、マザコンは結婚相手に無理」
「はいはい。マザコンでも何でも結構。この弁当は妻が作ってるから。これでいい? 悪いけど、用事あるので」 
 野澤は立ち上がってそそくさと食堂を後にした。

「野澤くん奥さんいたの? 嘘でしょー?」