「ふざけるのも大概にしてくれます? 都合のいいときだけ名前で呼ばないでください。ここ、職場ですよ?」
 浅沼は自分のことを名前で呼ばれ、全身に血の気が巡るかのように、顔が赤くなった。

 中学時代差別用語で呼んでからかってきたのに、今になっていきなり名前で呼ばれるとか、虫が良すぎる。気持ち悪い。
 忌々しげに舌打ちしたい衝動を抑えて深呼吸する。

「うわぁ、器せっま! いちいちうるさいわね。”障害者様”!」
 結花の障害者をバカにする発言が終わらなさそうなので、丸岡が「とにかく、元の場所には戻れません」と強い口調で断定した。
「いいですか? あなた含めて世の中色んな人がいる。私のように足が悪い人もいれば、落合さんや琴平(ことひら)さんのように人付き合い苦手で不器用な人達もいる」
 浅沼は結花に子供のに語りかけるように話しだす。
 結花は浅沼の方へ顔を向けた。
「あなたは今まで環境に恵まれて思い通りにいったかもしれないけど、自分でそれをぶち壊した。チャンスは今まで沢山あったはずだけど、くだらないプライドで全部台無しにした。あなたが足腰悪くしたのも因果応報だよ、障害者を馬鹿にしたからね。だから甘んじることなく、今の環境を受け入れてください。――あなたには社長秘書としてやってもらいます」