『呉松さんとは必要最低限の会話に徹して。最悪、手を出されるかもしれないし、関係を迫られるかもしれない。彼女若い男性好きだから。特にお前みたいなタイプは要注意だ。社長からもそうお達しが来ている。ビジネスライクでな』

 元々色々な人と話をするのが好きだし、愛想もいい方だ。無碍にできないタイプであることを自覚している。
 それが仇となってしまった。
 ついつい話を聞いたり乗ってしまう。
 最近は上司から『呉松さんに話しかけられたら、どんな内容か、いつ来たか教えてくれ。服部さんか丸岡さんに報告するから』と言われるようになった。
 まるでスパイのようなことを任されている。

「今日、落合さん来てるんですか? 調子悪いって?」
 その瞬間、結花の目が泳いだ。視線を書類に向ける。
「なんか気分悪いみたいだからさ、世界一可愛いゆいちゃんが"仕事交代”してやったんだ」

 や、やばい。無理矢理奪い取ったなんてバレたらどうしよう。
 心臓が跳ね上がるし、体がだんだん暑くなる。
 わ、話題を変えないと。

「ねぇ、野澤くんって休みの時何してるの?」
 これも重要! こういう話で趣味が見えてくるし、プレゼント攻撃出来るから。
「いやー、ずっと寝てばっかですね」
 定番のこれ以上話したくないアピールをした。