陽鞠はいつも結花から「お母さんは世界一可愛いから、お父さんと結婚してあげたの」と聞かされている。
 その言動に年を上がるにつれうんざりしている。
 小学校のあの授業参観での雰囲気。
 よくもわるくも有名になってしまった。
 元々結花は保護者の間では有名人だった。
 容姿もそうだが、服装や他の保護者へのマウントとりをするので、一部保護者から良く思われていない。でも娘の陽鞠ちゃんは真面目だし……とかなり微妙な立場だ。
 今住んでいる春の台は結花の実家がある場所なので、ちょいちょい彼女の話が陽鞠に来る。
 陽鞠は母が色々やらかしてたんだろうなと納得している。
 あの授業参観を機に少しずつ陽鞠は結花と距離を置くようになった。
 部活で吹奏楽部を選んだのは、新入生歓迎会での先輩たちの演奏がかっこよくて、自分もああなりたいと思ったのは表向き。本当の理由は、結花と祖母である周子と顔を合わせる時間を少しでも減らすためだった。
 父である悠真は「本当の理由」を聞いて、陽鞠の意向を理解した。
 結花のこともあり、学校のイベントはあの授業参観以来、悠真にお願いしている。しかしどうしても合わない場合だけ、結花が出席している。
「うちのお母さんさ、見た目だけの人間だから」
「そうなの?」