そもそも私が呉松さんの杖を使って歩くなんて、おかしな話じゃないですか。
 リハビリの先生が「なんで呉松さんが後藤さんの杖を持っているか」聞いたんです。

 そしたら、"試してみたかった”って。
 後藤さんは勝手に私の杖を使って、部屋に向かってきて、転んだだけ。
 こっちとしては、勝手に部屋に入られて困っていたし、それで転んで死んで貰っても困るから、お兄さん達呼んだだけって。

 でも近くで他の利用者さんや職員さん達が見てる人がいて、呉松さんと私に声かけようとしたけど、間に合わなかったんですって。

 呉松さんとしては、私が勝手に転んだ方が都合いいんですよ。
 自分も職員もお気に入りのリハビリの先生も責められないから。
 
 呉松さんの言い分や状況など全て、夫と大磐(おおいわ)施設長と面談しました。
 夫はカンカンでした。
 普段から夫には呉松さんのことお話してまして、彼女に対していい感情を持ってなかったんです。

 呉松さんに、家族が面会に来ないのは嫌われてるからって言われて、その話を夫にしたんです。
 
 夫はごめんなって申し訳なさそうに言ってましたが、本当は腹が立ったんでしょう。
 勝手に他人から家族に嫌われてるだどうのこうの言われたくないんですから。