川口さゆり(80)
私は呉松さんの部屋の隣なんです。
毎晩、おじちゃん連れ入れておしゃべりしてる。
呉松さんが来てからなかなか眠れなくって。
男性利用者は日替わりね。社食のメニューよ。
職員さん達に注意されたら、いーじゃんって。
なんて言えばいいかしら、穏やかな口調なんだけど、すっごい嫌味ったらしいの!
以前ね、私の杖を使って歩いてるの職員さんが見つけたの。
あれ、名前を孫がシール貼ってくれて大事にしてたの。
私が部屋にいない隙を狙って、持って行ったの。しかも名前シール剥がれてたの!
呉松さんに聞いたら、シールを上からテープで貼り付けるのなんてみっともないし、字が汚いから、剥がしたって。
あんなキャラクターもののシールはダサいって。
信じらんなかった。あの人のみっともないという勝手な理由でよ⁈
長く使ってたからシールがボロボロになってたしね。
あれは2年生のひ孫が1年生の時に、覚えたての漢字で、私の名前書いてくれたの。
可愛いひ孫がつたない字で頑張って書いてくれたからね。そりゃ嬉しいよ。
あの人にとっては、汚くってみっともないものかもしれないけど、私にとってはひ孫からささやかなプレゼントだと思ってるの。