そしたら、喉がかゆくなって、顔が赤くなってね、声が出しにくくなったの。
 近くにいつも私達に話しかけてくるおじちゃん……誰だっけ? 藤崎(ふじさき)さん、だっけ? 
 あの人が職員さん呼んでくれてね、その後処置してくれたの。

 後から同じ席の後藤(ごとう)さんから聞いたんだけど、呉松さん、私がかゆみで苦しんでるとこ楽しんでたんですって。
「これぐらいでかゆくなるなんて、おかしいわねぇ」とか「演技じゃないの? 本気なの?」って何回も聞いてたのよ。

 さすがに2回もなればわざとじゃないかしら?
 職員さん達は、差し入れの管理に厳しくやってくださってて、助かるんだけど、隙を狙って呉松さんから口に入れられるなんて思わないでしょうね。

 職員さん達は2回とも、電話で息子と娘に平身低頭(へいしんていとう)で謝ったみたいなの。
 でもその姿を見てたら、申し訳なくって。
 どうか職員さん達を責めないで欲しい。
 
 呉松さんとお家のことや夫のこととか話してるけど、だんだん付き合い切れなくなって。
 しかも、うちの息子が面会に来たら、話に入ってくるの。
 で、息子と嫁を別れさせて、うちの娘と結婚させてなんて言うのよ? 
 名刺ちょうだいって言われたわ。

 呉松さんの娘さん可愛いのよ? 女優さんみたい。