結花にとって久しぶりの実家は心躍るものだった。
なんだかんだ望海の家の玄関で、中入りたいとごねていたが、実家に戻れると聞いて楽になった。
だって娘になれるんだから。ゆいちゃんが主役でいてくれるから。
結花は車から降りてそそくさと玄関ドアを開ける。
ただいまと声かけても誰も返事しない。
母が駆け寄ってこない。父もいない。
お手伝いさん達もいない。なんでみんなゆいちゃんを盛大に迎えてくれないの?
車を駐車してきた良輔が中に入ってきたので「ねぇ、お母さんとお父さんは?!」と甲高い声で尋ねる。
「お父さんはいつもの部屋。お母さんは……おっと、言えないんだ。早くあがれ。お父さんとこいくぞ」
「まって、私の部屋行く!」
結花はかつて自分が使っていた2階の部屋まで駆け上がっていく。
手前の部屋のドアにつけていたピンクのハート型のプレートがなくなっていた。
そこにゆいちゃんの部屋と飾っていたのに。
ノックすることなく、ドアを開けると、積まれた段ボール箱にアウトドア用品、来客用の布団など、物置になっていた。
そんなお姫様のような天蓋ベッドも、薄いピンクの壁紙も、白を基調としたドレッサーや衣装ケースが全部なくなっている。どうして?