あのアニメの悪役令嬢も、めちゃくちゃ無神経で、家の名前で威張るようなタイプだった。
 平民になって何も残らないことに、屈辱を感じながら生きている。自分が被害者だと訴えて。
 
 望海は額に顔を当ててスマホを何度もチェックする。
「ねー、本家の娘の言うことでしょ! 黙って聞きなさいよ! そうじゃないと……」
 結花は望海の耳に囁く。その瞬間、望海は「やめて!」と声を荒げた。
 
 心臓が跳ね上がる。全身に血の気が引いて、言葉が続かない。言い返せない。  
 どこまで人のものを奪う気?
 実家の母に頼んで、この家をゆいちゃんの物にするとか、状況わかってるの?!
 そうだ、この人は力づくで自分が欲しいものを手に入れるタイプだ。
 昔は泣き寝入りしていたけど、もうそんなはいはい言う人じゃない。
 彼女はずっと昔に取り残された人なんだ。

 インターホンの音がした。リビングにいる拓登から「良輔さんが来た」と声がした。
 兄の名前を聞いた結花の顔がしかめっ面になった。
 望海がドアを開けると、スキンヘッドに長身の男性。太い黒縁眼鏡と高い鼻。黒の光沢あるスーツを着ていた。
「うちの馬鹿妹が本当にお騒がせしてすみません。後日お詫び伺います。何かされませんでしたか?」