もう昔のように、はいはいあっさり言うこと聞く私じゃないんだから。

「いーじゃん! 本家のお嬢様の言うことぐらいありがたく思いなさいよ!」
 結花の口調もヒートアップして顔が紅潮(こうちょう)している。
 むしろ結花の声の方が大きい。玄関どころかリビングまで届きそうな。開放的なお家だから2階までいきそうだ。
 このままだと2人の言い争いが続きそうだった。

「さっきから女性の声がすごいするんだけど?」
 リビングから、青のブラウスにベージュのチノパンを着ている男性が出てきた。
 黒い縁の太い眼鏡をかけて、四角い顔で、少し白髪かかったパーマ――望海の夫、文登(ふみと)だ。
「ふ、ふみちゃん……?」
 文登は結花を見た瞬間凍り付いた。