ゆいちゃんの機嫌を少しでも損ねたり、コーヒーの量を間違えたら、八つ当たりで服に引っかけたり、足踏んで、転ばせていた。
 しかもそれをゆいちゃんは嬉しそうに話す。
 罰としてやったと。まるで世間話するノリで。
 お手伝いさん達がゆいちゃんと周子(ちかこ)おばさんに地味な嫌がらせや、嫌味を言われている所は何度も見ている。
 大丈夫ですかと言っても、お手伝いさん達は「望海お嬢様は気にしないでください」といつも、無理矢理笑顔を作って気を遣っていた。
 そんな陰湿な人、家族と鉢合わせさせたくないし、早く帰らせないと。
 今子供達が外出しているのが幸いかもしれない。  

「どこが? あんな陰キャ世界一可愛いゆいちゃんなら、イチコロよ」 
 胸を張って望海にウィンクする結花。
「なんなら、ふみちゃんに会わせてよ? 久しぶりにおしゃべりしたいの。ね、ちょっと借りていいでしょ? 外で一緒にランチしたいの」
 結花の無邪気さは、望海にとって恐怖に過ぎない。
「借りていいってなに? 私の夫は”物”じゃないよ。レンタル彼氏みたいな扱いしないで」
 少し語気が強くなる望海。鋭利(えいり)な目つきに変わった。
「はぁー? あんな陰キャみたいな人ほどゆいちゃんにコロッと心惹かれるのよ。真面目なあんたに飽き飽きしてんじゃない?」