矢継ぎ早に質問する悠真に陽貴が手で制止する。
「今話したくないんだよね。悠真、お茶出してくれ」
「ちゃっかりお願いしてんじゃねーよ。分かったよ」
 悠真は3人分のお茶と段ボールに入ってるみかんを用意して、こたつに戻った。
「外寒いもんなー。練習は室内?」
「ほんとマジ寒い。廊下も冷えてるし。音楽室はあんまり暖房の温度上げると部長に怒られるから」
「そうか。暖房の温度上げてくれないのか。ケチだな」
「ちかは暑がりだからね。仕方ない」
 陽鞠は諦めきったようにつぶやく。
 部長の浅沼智景(あさぬまちかげ)は夏はもちろん、冬でも音楽室に暖房がついてるのを嫌がる。すぐに暑いと言って、切ってしまう。
 春の台中学校の吹奏楽部は、部長の発言が絶対だ。
 部長が暖房消すとなれば、つけたくても我慢するのが当然の考えだ。顧問も現状を理解しつつも、《《長年の伝統》》や《《暗黙の了解》》を理由にとめない。むしろ社会の不条理さを学ぶのに丁度いいと思ってるぐらいだ。
 問題になるとしたら、練習中に凍死したとか、救急車に運ばれたとかだ。それでも顧問が隠蔽(いんぺい)するだろう。保護者からバッシングされても、伝統で突っ走る。
「それで体調不良でないの?」