スタッフ達が口々にコメントしてるなか、野崎は鞄から弁当を取り出して、箸をつけるが進まない。
「だ、大丈夫?! コーヒーいる?」
 小野田が鞄から缶コーヒーを野崎に渡す。
「いいの? 飲むんじゃ……」
「いいのよぉー! これ息子の嫁さんから段ボール一箱分くれてね、家で消費出来ないから、持ってきたの。まだあるからいいよ。それか、明日みんなの分持ってこようか?」
「お気遣いありがとう。いやー、なかなか癖のある人だ。人事部長が彼女を甘やかさないようにって言ってたけど、気持ちが分かる。おれ、直球でハゲって言われたんだぜ?! あげくに嫁のこと物好きとか言いやがってよぉ! どこがお嬢様だよ! 成金の間違いだろ?」
「うわぁ、マジですか……お嬢様って、《《自称》》してるんですか」
 男性スタッフの質問に、野崎は黙って頭を上下する。
「彼女の実家は呉松家。春の台で昔から名の知れた有力者の家なんだよ。で、お父さんが呉松グループの社長で後継にお兄さんが指名されている」
「あぁ、あの呉松家ね! がちよ。あの家は。昔は議員があそこから出てたけど、最近はすっかり聞かなくなったわね」
 太刀川が思い出したかのように手を叩く。ほかのおばちゃんたちも「ああ、あの家ね」と続ける。